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マニラの空港で女の子を助けたら闇が深かった話


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家族への仕送りのために単身海外へ飛び出し、家事労働などで働くフィリピン人女性が、どのような人生を送っているかご存じですか?

 

「海外に出稼ぎに行く」はフィリピンで決して珍しいものではありません。むしろ、特に中東地域において、「旅行先のホテルに泊まったら掃除の方がフィリピン人だった」なんてことはよくあるのではないでしょうか。

 

僕自身も、フィリピン人の出稼ぎ労働については存在自体は知っていましたが、その詳しいことについてはよく知りませんでした。しかし、以前マニラ空港で偶然あるフィリピン人の女性と一緒になり、その出稼ぎ労働の闇の部分を知ることになりました。

 

今回は、そのお話とフィリピン人の出稼ぎ労働の実態について解説しようと思います。「このケースが出稼ぎ労働の全てだ!」というわけではありませんが、こういった深い事例もあるのだと思いながら読んでいただけると幸いです。

 

●目次●

 

マニラ空港で偶然助けた女の子の話

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(※個人情報に関わるものには全て架空の情報を使っています)

マニラで偶然居合わせたフィリピン人の女性

僕がトルコからペルシャ湾に面した中東の国を経由して、マニラへ向かった後のことでした。マニラはターミナルが4つもある大空港で、それぞれが離れた位置にあるのでタクシーや空港のフリーバスで移動をしなくてはいけません。飛行機が1時間遅れたため、急いでタクシーを利用してターミナル移動をしようと考えたとき、ターミナルで同じように困っている女性を見かけました。もしかしたらと思い声をかけたところ、彼女も同じ便でマニラに来たらしく、行き先もたまたま同じのフィリピン人の方でした。こんなことになると思わなかったらしく、2人で急いでタクシーを利用してターミナル移動をしました。

 

タクシーで知った衝撃の事実

タクシーの中でたわいもない話をしているうちに、ハニー(仮名)という名前の彼女は、とある中東地域で家事労働者として働いている高校生でした。4年以上前からその国で働いているということを聞かせてくれました。「4年前・・・?」よくよく考えてみると、4年前は彼女は高校生ではなく中学生です。なんと、彼女は中学生の頃から家事労働者として働いていたのでした。フィリピンの義務教育は合計13年間あるため、中学生の時期ももちろん義務教育期間に当てはまります。ただ、フィリピンの田舎地域においては中学校に行かずそのまま漁師になったり、小学校をドロップアウトして実家の農家を継ぐという子どもも普通にいます。そういったケースを多く知っていた僕はあまり驚くことはありませんでした。しかも、「中学生でもその中東地域では働けるんだぁ」と簡単な気持ちで思っていました。しかし、実際はそんな簡単なことではありませんでした。

 

4年間ごまかし続けた年齢

着いたマニラ空港第3ターミナルは大混雑で、内部に入るためにも行列でかなり待たされ、残念なことにカウンターに着いた頃には飛行機は出発してしまっていました。そのため、僕たちは新しい航空券を購入しなくてはいけませんでした。航空券は約7,000円で、平均的な物価感覚で言うとだいたい半月分の給料ほどです。ハニーさんは家族の仕送りのために貯めた全財産をフィリピンペソに換金し、泣く泣く航空券を買うことにしました。しかしクレジットカードを持っていないため、ウェブで航空券を買うことができません。旅行代理店の存在も近くにあるかどうかわからなかったため、頼る存在が僕しかいませんでした。僕から彼女の兄弟に連絡をとり、僕のクレジットカードで彼女の分の航空券を購入することが決まりました。実際に購入するためにパスポートの個人情報を見せてもらったのですが、あるページに目を通した時に、彼女の労働の闇の実態を知りました。彼女の生年月日欄にはこう書いてあったのです。

 

「1991年10月23日生まれ」

(※細かい日にちは架空の情報を使っています)

 

さきほどのタクシーでの彼女との会話で、僕よりも年下だと分かっていたため、この生年月日を見て驚いた僕は「なんだ!おれより年上なんじゃん!」と言うと、彼女は口に人差し指を当てて「静かに・・・!」というような仕草を見せました。驚くべきことに、彼女のパスポートは偽装パスポートだったのです。つまり、その中東地域では中学生は働けないので、彼女が年齢に嘘をつきながら4年間以上家族への仕送りのために働いているということでした。さっきタクシーで「毎日のように働いて本当に疲れるんだよね」と窓の外を見ながら漏らしていた彼女の姿がその時に思い出されました。ハニーさんは、家事労働という大変な仕事を家族への仕送りのために止めることなく、4年間自身の年齢をごまかし続けていたのです。

 

 

フィリピンで海外の出稼ぎ労働は珍しいことではない

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(フィリピン北部ルソンバギオ・市場の様子;筆者撮影,2019)

2018年の時点で海外へ出稼ぎに出ているフィリピン人の総人口は約2,300万人(男性:46,3% 女性:53,7%)います。男女共に中東地域での仕事が1番多く、男性は主に建設・炭鉱・石油関係の仕事につき、女性は家事労働などの仕事に就きます。2019年度のフィリピン人の出稼ぎ労働者による送金総額は約3,5兆円で、国内総生産GDP)の約9%を占めているほど、出稼ぎ労働は将来の選択肢の一つとして定着しています。また、海外出稼ぎの1番人気が中東地域で、2017年の段階で全体の85%が中東地域を含むアジアで働いており、そのうち4人に1人(25,4%)がサウジアラビアで働いています。次に来るのがUAE(15,3%)、クウェート(6,7%)、香港(6,5%)などです。

 

そもそも国内に仕事はないのか

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(フィリピンルソン島マニラ・コンクリートに囲まれた都市部で遊ぶ子供たち;筆者撮影,2019)

フィリピンの大半の雇用形態は、「契約社員」です。フィリピン南部にあるミンダナオ島のケースで言うと、最も難しいとされているのが正規職員になることです。基本的には契約社員として2年が経過すると正規職員になれる原則があるのですが、正規雇用にすると企業側が人件費でさらにお金がかかってしまうので、2年が経つ直前で何かしら理由をつけられて解雇されてしまうケースが少なくありません。田舎地域の場合、収入は月に1万円にも満たないですが、漁師やココナッツ農家など第一次・第二次産業に従事するような仕事があります。しかしこれはほとんどが重労働のため男子のつく仕事となっており、女子は頑張って勉強を続け学校を卒業し、都市部へ仕事を探しに行かなくてはなりません。都市部の場合は男子すらもそのような仕事がないので、学校をドロップアウトしてしまう子は、1日の生活を守るために貧困生活が強いられます。小学校を卒業したという証明があればなんとか働けるところはあるのですが、このような不安定な就職状況において、出稼ぎ労働は仕事に就きやすかったり、収入が安定しているため多くの男女に魅力的に見えるのでしょう。

 

問題は「児童労働」でも「不法労働」でもない

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僕の正直な意見をいうと、僕の立場では児童労働やら不法労働やらと彼女を反対・否定することはできません。彼女の働きがなくては家族を支えることができませんし、この出稼ぎ労働があるからこそ今のある程度安定した状態が保たれているのだと考えることもできます。たしかに、児童労働や不法労働に繋げて話すこともできますが、今回はそのようなことはしません。ただ、家族や自分の生活を守るためにこうした生活をしている人たちがいるということを知ってもらいたい思いで書きました。フィリピンは、貧しい国ではなく貧富の差が激しい国です。しかしながら、ただ富裕層と貧困層に分かれているのではなく、そこには中間層として暮らしている人たちがいます。しかし中間層といえど、自身に選択肢がないような状態で止むを得ず働いて何とかして普通の暮らしを保っている、誰かに助けを求めたくても声を上げられない隠れた人々がいます。フィリピンではこの10〜20年間で中間層が勢いよくどんどんと力をつけてきていますが、こうした人々の努力があることを忘れてはいけません。

 

まとめ

今回の僕のメッセージは、海外で出稼ぎをしているからその家庭は貧困ではないと一方的にいうことはできないということです。海外で働くことがフィリピンで夢の世界のように輝いていますが、実際は「そうするしかない」という現実があります。ハニーさんも、身なりはとても普通の女性の格好をしていていますが、おそらくそうした労働がなかったら、また別の人生を歩んでいたかもしれません。空港で彼女を助けるために、お姉さんとお兄さんともインターネットでやりとりをしましたが、本当に丁寧で良い方でした。おそらく3人とも働いてそれぞれお互いに助け合って生きているのでしょう。家族の絆がフィリピンの人たちはとても深いので、これからもあの彼女が元気に暮らしてくれることを望みます。

 

参考サイト

【海外出稼ぎ労働3/4】フィリピン人の出稼ぎの国・仕事内容・給料を大公開 | マナビジン(2020年3月12日閲覧)

愛する家族のために:フィリピンの出稼ぎ労働者の実態 – GNV(2020年3月12日閲覧)

Philippine Statistics Authority | Republic of the Philippines(2020年3月12日閲覧)

 


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