フィリピンマニラ・路上で遊ぶ子どもたち(筆者撮影, 2019)
「フィリピンマニラのスラム街で暮らす、学校に行けない子どもたちにランドセルを300個届けました!」
一見とてもいいことをしたように見えるこうした物資援助による国際協力。しかし実は、その裏で悪影響を及ぼしているかもしれない事実に気づく人は意外に多くありません。
物資援助による国際協力は万能ではなく、国際協力で「とりあえずモノをあげればいい」という考えは間違っています。本来、物資援助は状況を考慮しなくてはいけません。では、本来あるべき物資援助の姿はなんでしょうか。
当記事では、物資援助が及ぼす悪影響と原因、そして解決策を解説します。
●目次●
物資援助が地域にもたらす悪影響とは
現地の経済を破壊する
フィリピンミンダナオ島南部・田舎地域にも立派な市場は存在する(筆者撮影, 2020)
開発途上国の人たちは、全員毎日物資を供給されて過ごしているのかというと、そうではありません。現地には現地の経済があり、そこでモノの売買が行われている場合が多いというわけです。現地の経済がある中で外から物資を運んできてしまうと、その現地の経済が発展しません。「少しくらいなら、そこまで影響を与えるわけじゃないだろう」という考えもあるかと思いますが、1ヶ月1万円以下の給料で生活をしている人々にとっては、日本の200・300円くらいの物価も大きな値段です。さらに事態が悪化すると、支援物資が現地の市場に出回るという場合があります。要するに、支援物資よりも必要なものがあったので、それを買うお金を作るために支援物資を市場で売ってしまったということです。「文房具屋さんが以前まで儲かっていたのに、支援物資のせいで生計を立てられなくなって廃業した。なおかつそこの子供はお金がないから働きに出て学校に行けなくなってしまった。」なんてことは絶対に避けたい事態です。
根本的な解決にならない
フィリピンマニラトンド地区・線路沿いに住居を構える人々の様子(筆者撮影, 2019)
支援物資は消耗品であるということを、しっかりと理解しておく必要があります。物資を使い切ってしまったら、そこで支援対象者の行動範囲は狭まってしまいます。たとえば、経済的困窮が原因で学校に行けない児童に、文房具や教科書を購入したとします。(小学校は授業料自体は無料であるが、交通費や諸教材費は自己負担すると仮定します)最初は確かに学校に行けます。他の子供たちと同じ授業を受けて楽しく時間を過ごすことができます。しかし支援物資が絶たれたら、その児童は自分で勉強道具を買うことができないので、学校を辞めてしまいます。また、本当に日々の暮らしが厳しい家庭では、教育の重要性をわかっているにもかかわらず、1日のご飯を食べるために子供を働きに出してしまうというケースが多くあります。フィリピントンド地区のかつてスモーキーマウンテンがあった地域周辺はまさにそのケースが当てはまります。このように、物資援助は基本的に一時的な支援でしかなく、根本的解決になりません。「児童が持続可能的に学校に通えるようになる」ということに重きをおけば、物資援助よりも両親の職業訓練や児童養護施設への紹介を考えることなどをした方が圧倒的に効果的です。
「援助慣れ」を助長してしまう
フィリピンミンダナオ島南部・自分自身で工夫し船を作って漁をする男性(筆者撮影, 2019)
的を得ていない物資援助がもたらす悪影響のひとつに、現地の人が援助慣れしてしまうという点があります。物資の供給が途絶えた後は、現地の人たちは自分たちでその分をどうにかして生活しなくてはいけません。これは若干個人的な視点が入りますが、ヒトは恩恵を与えられすぎると自分から何かを獲得するという意欲をなくしてしまいます。なぜなら、自分で何かを獲得する必要がないからです。物資援助もこれと同じで、不用意かつ過剰な物資提供は人々に「いつでももらえるんだ」という勘違いを生み出してしまい、自身で物事を解決する力を養えなくなってしまいます。その結果、他NGOなどが支援に入った際に、現地住民に「モノをくれ!」と過剰に要求をされて、そうした人々は支援にぶら下がる怠惰な人々とレッテルを張られてしまうのです。しかしよく考えてみると、それは現地住民が悪いのではなく、支援者の間違った関わり方がそうした問題を起こしているのです。本来は、そうした場合には物資援助ではなく、自分で行動を起こし解決できる力を持ってもらうアプローチが必要です。(俗にエンパワメントと呼ばれます)
なぜ悪影響のある物資援助が生まれてしまうのか
支援者が現地の状況を理解し切れていない
現地の状況を理解し切れていないこと、ニーズ調査がうまくいっていないことなどが大方な原因です。うまくいっていない物資援助は基本的に、支援者の立場でしか状況は見れていない場合が多いです。たとえば、毎日裸足で歩いている子供を見て「かわいそう」と思うのが支援者の観点だとします。そこでサンダルや靴を供給した後に、結局その子供は裸足で生活し続けました。それはどうしてか、なぜならその子どもはサンダルや靴を「いらないもの」として見ているからです。実際に裸足で生活している人たちはいくらでもいます。現地の必要とされているものを知るためには、現地で長年支援活動をしている信頼性の高い人物から話を聞いたり、実績のある組織にニーズ調査を依頼するのがベストです。とにかく、私たちの考える必要なものと現地の人が考えるそれは違うということをよく覚えておかなくてはいけません。またひとつに、現地に自分自身が身を置いて状況を知るという方法がありますが、その方法で現地の本当の姿を知ることには限界があります。詳しい内容は以下のリンクにまとめたので、ぜひご覧ください。
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CSRを行いたい企業や財団法人のエゴ
また、CSRを行なっていることを社会に広めたい企業のエゴで、現地のニーズが無視された物資支援が行われる場合があります。CSRとは、正式名称をCooperate Social Responsibility(企業の社会的責任)と言い、利益を生み出している企業が担うべき社会貢献の責任として行う国際支援活動です。国連の定めた持続可能的開発のための17の目標SDGsによって、民間まで持続可能型社会に向けた国際貢献が世論的に求められたことを背景に始まっています。要は「私たちは自分の利益だけを追求するのではなく、社会で困っている方々にもその利益を貢献しているんですよ」ということをアピールすることができるわけです。ここで公表をすることはできませんが、現地のニーズを無視したCSRが細々と行われているケースはゼロではありません。自社の信頼性・社会貢献度を広めるために、やや強引にCSRが行われてしまい、結果として現地の社会構造を破壊してしまうという結果になってしまいます。
物資援助が有効なのは「人道支援」の時
物資の供給が行き届かない地域(紛争地帯や災害地域など)
国際協力活動には、人道支援と開発支援があります。紛争・災害などなにか問題が起こった場合には素早い対応が必要で、そうした緊急時の支援のことを人道支援(緊急支援)と呼びます。そしてある程度緊急性が落ち着いた後に復興へ進めていくときの支援を開発支援(中・長期支援)と呼びます。物資援助は対応の緊急性が高い人道支援下において大変有効です。紛争や災害などで一時的に物資がなくなってしまった地域では、物資援助に高いニーズがあります。また、紛争の影響でなにも持っていない状況で家を追われて第三国へ避難してきた人々などにも、物資援助は大変有効です。ただし、その場合には可能な限りその第三国で購入した物資を供給することが大切です。
地域に物資は回っているが、一時的にそれが足りていない場合
これも人道支援の類ですが、対象地域に市場があるものの、なにかしらの原因で一時的に特定の物資が足りなくなってしまった状況にも物資援助は有効です。たとえば、原因不明のウイルス感染の病気が流行した時のことを考えてみましょう。多くの現地の人々が感染対策のために衛生商品を買い始めると、当然のごとく需要が高まりそうした商品は多く売れます。しかし緊急的な状況下では高い需要に対して供給が追いつかない場合があります。そういった際に物資援助は効果的です。
開発支援について学ぶのにおすすめの本
間違った物資援助は、多くの場合が途上国での開発支援において発生します。大学生でも、授業の一環や長期休暇での短期ボランティアでも、開発支援での物資援助を行う機会があるでしょう。そんな時にこの本はオススメです。この本には、開発支援において必要なメンタリティーや、現地住民との接し方、具体的な開発支援のアプローチ方法などが記してあります。他の本と違うところが、「決して正しい答えが書かれているわけではない」というところです。コラムのような短編がいくつか続くのですが、どれも従来の開発を批判するように見えますが、短絡的に自身の開発支援のアプローチを正当化していません。長い開発支援の経験の中で、開発支援があるべき姿とは何かを常に考えながら書いてきたことが伝わってきます。そうした文章からも、僕たちも深く考えながら国際協力を行なうべきことが学べます。自身の国際協力活動を行う前と行った後の両方に読むと、また理解が深まると思いますよ。
まとめ
いかがでしたでしょうか。モノは消耗品であり、いつかはなくなってしまいます。物資援助も同じで、消耗的であり持続可能敵ではありません。一時的な効果しかないからこそ、物資援助は緊急性の高い人道支援下において大きな力を発揮します。こうした要素を含んだ物資援助は、開発支援下においては説明した通りの悪影響を及ぼしてしまう場合が排除し切れません。現地のために正しい援助をできるためにも、物資援助の消耗的・非持続可能的な側面は覚えておいた方が良いでしょう。